旅の途中で起こる出来事が主軸となるロードムービーは、物語を楽しめるだけでなく、その国の文化や生活に触れることができるため、旅行が好きな人にもおすすめのジャンルです。
今回は、疎遠になってしまった三兄弟が絆を取り戻すための物語「ダージリン急行」をご紹介したいと思います。
インドの美しい景観にもご注目ください。
映画「ダージリン急行」・あらすじ
ホイットマン三兄弟は一年前に行われた父の葬儀以来疎遠になっていたため、それを危惧した長男フランシス(オーウェン・ウィルソン)の呼びかけによってインドに集合し、旅行をすることになりました。この旅行の趣旨は兄弟の絆を取り戻すことのほかに、父の葬儀に現れなかった母に会いに行くというものでした。
ところが、フランシスはバイク事故に遭った直後で頭がおかしくなっているうえに顔は包帯まみれ、次男ピーター(エイリアン・ブロディ)は父の遺品を独り占めしているため兄弟から顰蹙を買っているだけでなく妊娠中の妻との関係で悩んでおり、三男ジャック(ジェイソン・シュワルツマン)は女性トラブルが絶えないという問題を抱えています。
それぞれの問題に精一杯なため、兄弟間での心の距離縮まらないまま旅は進んでいきます。
さらには、現地で調達した毒蛇を誤って車内に放してしまったことやひょんなことから勃発した兄弟喧嘩で使用したペッパー・スプレーによって車内中に迷惑をかけ、とうとう列車を降ろされてしまいます。
母が三人には会いたがってないという事実も分かり、帰国を決意した三人が最寄りの駅まで歩いていると、川に流されている幼い三兄弟を発見します。
彼らは懸命に助けようとしますが、次男の子は岩に激突して死んでしまいました。
彼らは帰国をやめてその亡骸を村に運び・・・。
映画の見どころ①景観を切り取るカメラワーク
この映画の特徴としては、カットを入れずに長くカメラを回すことで場面を切り取る手法が多く用いられています。
特に印象的なのがホイットマン三兄弟が亡くなった子供の村を歩いているシーンです。
カメラは三兄弟を捉え続けていますが、その周囲に映る村人たちの文化や生活が色濃く映し出されているため、見ている側にもインドの景色が伝わるとても印象的なシーンとなっています。
また、この撮影法によって、どこかゆるやかな雰囲気が出ています。
三兄弟はすれ違ってばかりで父は他界しており、母は失踪しているとあって上手くいっていない家庭に思うかもしれませんが、その重苦しい状況がゆるく表現されています。
ところどころでかかる「オー・シャンゼリゼ」を始めとした数々の名曲もまた軽やかさを演出していることでしょう。
映画の見どころ②噛み合わない三兄弟が徐々に絆を取り戻す様
三兄弟は初めは互いを信頼しておらず、例えばピーターは息子が生まれることをフランシスには黙っていたり、ピーターが父の遺品をひけらかすので他の二人は不満を覚えていたり、ジャックの元カノについて兄二人は不信感を抱いていたり。
事故で頭がおかしくなったフランシスが弟たちの食事のメニューを勝手に決めたり、パスポートを取り上げ「俺が管理する」と言い出した時にはピーターは「頭がイカれている」とまで言っています。
そんな三兄弟が絆を取り戻すまでに至ったきっかけは川に流された子供の死だったのではないでしょうか。
ちょうどホイットマン三兄弟と同じ三兄弟であり、その内の一人が欠けてしまうのを目の当たりにしたことは、彼らにとって大きな出来事であったに違いありません。
彼らは葬儀に参加したあと、修道院にいるという母のもとへ押しかけます。
そこで母の「過去は忘れなさい」「後悔のないように楽しく過ごすこと」という言いつけを守り、翌朝には礼拝まで行い、晴々とした表情で帰路につきます。
経由駅で三兄弟が乗車予定だった列車が不運にも目の前で出発してしまいますが、彼らは重い荷物を過去と共に捨てることで列車にギリギリ間に合うのです。
最後にフランシスは弟二人にパスポートを返そうとしますが、二人は「まだ預けておく」「兄さんが持っていた方が安心だ」と信頼を口にしたのでした。
映画の見どころ③三兄弟の母の謎
三兄弟は、母は何故父の葬儀に来なかったのかという疑問を長らく抱えていましたし、見ている側もその疑問を覚えるのではないでしょうか。
彼らの母が修道院で尼僧をしているということも、彼らがインド旅行中に知り得たことでした。
ますます謎の多い母に彼らが詰め寄ると「葬式には行きたくなかったから」と言うのです。
そして、「父を失ったことは残念だった」「でも父が亡くなった事故も全ては神の摂理によって起こったことで過去は戻らない」「終わったことだ」と尼僧らしいことを口にします。
立ち去ろうとした母はしかし、その素っ気なさから一変して、「言葉以外であればもっと自由に表現できることもあるかもしれない」と言い、息子たちをまじまじと眺めると静かに涙するのでした。
日本でも修行中の僧侶が家族の葬儀などに出席する場合、修行を中止するという取り決めがあるそうです。
彼らの母は修道院をまとめるという立場にあることから、例え家族であっても右往左往されるわけにはいかないものであったのかもしれません。
それでも神を祀っている場で涙を流したことは彼女なりの精一杯の愛だったのではないでしょうか。
そう考えると、この作品はとても奥深いものに感じます。
ただし、実際のところ本編でこの謎は明らかにはされていませんので、見た側が自由に考えるという面白さがあるようにも思います。
映画「ダージリン急行」・まとめ
ロードムービーの本質は、旅を通して登場人物たちにもたらすものがなにかということにあると思います。
「ダージリン急行」では、心が離れていたホイットマン三兄弟が再び絆を取り戻し、再会を思わせる描写が多くの人々の胸に届いたのではないでしょうか。
また、舞台がインドとあって、文化や景観に至るまで鮮明に映し出されており、現地を訪れてみたくなるのも醍醐味のひとつと言えるでしょう。
物語はスローテンポで描かれており、気を楽にして見ることができますので、ゆっくり過ごしたい日の一本として本作に触れてみてはいかがでしょうか。